第一印象覚えようぜ③
あご
「意識は声かけと見た目で判断できるでしょ?次はパッと見て変な呼吸してないかどうか」
まつげ
「パッと見て呼吸なんかわからなくない?」
あご
「まずは生命に関わるかどうかがわかれば良いのよ。呼吸してるかどうか、変な音立ててないかどうか、肩で呼吸したり、寝たり起きたり落ち着きが無かったりしてないかどうか」
まつげ
「そんなもんで良いんですか?」
あご
「まぁ最初の印象で私たちの介入が必要かどうかを判断する、生命の危機の有無を判断するっていうのが目的だからね」
まつげ
「変な音っていうのは、聴診器使わないと聞こえなくないですか?」
あご
「この場面では聴診器を使用しないで聞こえてくる音がないかに注目ね。本当に危ない気道狭窄とかガーガー、ヒューヒュー聞こえるわけよ」
まつげ
「まだそんな恐ろしい場面には出会ったことないですけど……、じゃあ例えば鼾かいてたら介入が必要ですか?」
あご
「それが本当に何の問題も無い鼾なら心配ないけど、何かが原因で気管が閉塞してる音が鼾みたいに聞こえてくるんだったら介入は必要じゃない?」
まつげ
「そんなことあります?」
あご
「あるわよ。例えば、海苔が気管のほうにいったら気管壁に張り付いて取れない上に気管自体を塞ぐんだからね。その状態で呼吸しようとすると、隙間から何とか空気が入るかもしれないけど必要な量は全然確保出来ないんだから。しかも、咳をしようと思っても無理よ。だって、効果的な咳が出来るほどの空気がまず入らないんだから」
まつげ
「とても臨場感あふれる、鬼気迫る説明ですね」
あご
「私が実際に子どもの頃経験したことよ。家族で夕飯食べていたら喉に海苔が張り付いて死ぬかと思ったのよ。そんな私を見て母は腹を抱えて…」
まつげ
「あ~、ハイムリック法ですね?」
あご
「いや、笑ってたわ」
まつげ
「・・・は?」
あご
「腹を抱えて笑ってたのよ。信じられなくない?あとで聞いたら『そんなに急を要する事態だとは思わなかった』と言っていたわ」
まつげ
「まぁ、とっさに判断するのは難しいですよね」
あご
「いやいや、その場の空気でわかりそうなもんじゃない?だって、もし私が息してないように見えたら貴方どうする?」
まつげ
「…しゃっくり止めようと頑張ってるのかな〜と思います」
あご
「…あなた、ほんとに看護師?」
まつげ
「あ、すみません。『しゃっくり』じゃなくて『吃逆』ですね」
あご
「……医療用語使えって意味じゃ無いわよ?」
……つづく